前回の記事では、私が予備自衛官補として初めて訓練に参加した時のことを書いています。
まだ読んでいない方はぜひご覧ください:予備自衛官補訓練 5日間の体験記
2月に参加したA日程から約半年。
先日、予備自衛官補訓練のB日程に参加してきました。
「次はどんな訓練が待っているんだろうか」
今回は不安よりも、ワクワクする気持ちの方が大きかったように思います。
そして5日間を終えてみると、今回も本当に多くのものを得られた時間になりました。
A日程の頃は、とにかく目の前のことを覚えるだけで必死でした
敬礼一つ、整列一つ、初めて触れる小銃の扱い一つ。
何もかもが新鮮で、気がつけば一日が終わっていました。
でも、今回は少し違いました。
「あ、この動きは覚えている」
そう感じる瞬間が何度もありました。
もちろん、小銃の点検要領のように、
「確かにやったはずだけど、全然思い出せない……」
というものもありました。
実際に動作を始めれば少しずつ記憶は戻ってくるのですが、頭の中の記憶と体の動きが、なかなか結びつきません。
人は忘れる生き物です。
でも、忘れたとしても、もう一度触れることで思い出す。さらに繰り返すことで、少しずつ自分のものになっていく。
そんな当たり前のことを、自分の体で実感した5日間でした。
高校時代以来の体力測定
今回は体力測定があり、意外にも楽しみながら取り組むことができました。
実際に自分の体力を測定するなんて、高校卒業以来でしょうか。
結果は、思っていたよりも悪くありませんでした。
……前屈を除いては(笑)。
「これは次回までの宿題だな」
自分の現在地を数字で知ることで、次の目標が一つ増えました。
そして、体力測定の中で最もきつかったのが「急歩」です。
急歩とは、いわゆる早歩きです。走ることは禁止されています。
歩き始めて100メートルほどで、脛の前側が悲鳴を上げました。
「え、まだこんなに残っているの?」
そこから先は、正直に言って地獄でした。
ただ黙って耐えていると、余計につらくなりそうだったので、区間ですれ違う仲間たちに、意識して声を掛けることにしました。
「気合い入れていこうぜ!」
「顎、上がってんじゃないの!?」
「あとちょっとー!」
仲間を鼓舞することで、不思議と自分自身も楽しくなり、最後まで頑張ることができました。
終わった後には仲間から、
「あんなに楽しそうに歩く人いないよ!」
と言われました。
苦しかったはずなのに、不思議と私は楽しむことができました。
翌日は、人生で初めて脛の前側が筋肉痛になりました。
走る時とは違う筋肉を使うのでしょう。
「歩くだけ」でこんな場所が筋肉痛になるのかと、自分の体について一つ新しい発見がありました。
地面に頬を擦りつけながら進む
ほふく前進も忘れられません。
まず、ほふく前進に何種類もあることに驚きました。
頭の高さや移動速度によって、動作を使い分けるそうです。
中でも印象的だったのは、頭を一切上げず、地面に頬を擦りつけながら小銃を握りしめながら進む動作でした。
視界いっぱいに広がるのは土と草と空だけ。
もちろん、人生で初めての体験です。
顔を地面すれすれまで近づけると、土の匂いと草の青臭さをまともに感じます。
普段の生活ではまず味わうことのない感覚で、きついながらもどこか新鮮でした。
しかし、装備も小銃も重く、ほんの数メートル前に進むだけで息が上がり、汗が噴き出します。
訓練用の安全な原っぱですら、これほどつらい。
「これが実際の戦闘だったら、一体どれほど過酷なんだろうか」
まったく想像がつきませんでした。
今回教わったのは、「ほふく前進とは、こういうものだ」という入り口にすぎません。
より強度の高い訓練や、まして実戦となれば、まったく次元の違うものになるのでしょう。
訓練中は、水分や塩分を補給するために、こまめに休憩を取っていただきました。
それでも、熱中症の危険を知らせるカナリアウォッチのアラームが、あちらこちらから聞こえてきました。
それほど暑い中での訓練でした。
教官の方々は常に私たちの体調を気遣い、無理がないかを確認しながら指導してくださいました。
訓練は厳しくても、参加者を守るための配慮が随所にあることを感じました。

「要救助者の前では、苦しい顔を見せられない」
今回の訓練で、特に心に残った言葉があります。
教官がおっしゃった、
「要救助者の前では、苦しい顔を見せられないでしょ。そのためにも基礎体力が必要だよね」
という言葉です。
その一言で、自分の中にあった「体を鍛える意味」が少し変わりました。
カッコつけるために筋トレをする。体力向上のために走る。
そうではなく、いざという時、誰かを安心させられる自分でいるために体を鍛える。
自分が苦しそうな顔をしていたら、助けを必要としている人は、さらに不安になってしまうかもしれません。
相手を安心させられるだけの余裕は、日頃の鍛錬によってしか生まれないのだと思います。
私が予備自衛官補を目指した理由の一つに、
「自分自身が、自分のことをもっと承認できるようになりたい」
というものがあります。
誰かに評価されるためではなく、自分で自分に恥じないと思えるようになりたい。
今回の訓練を通して、そのために自分が何を続けるべきなのかが、以前よりも明確になった気がします。

疲れ切った日の夕方に、みんなで走った
3日目の夕方。
A日程から一緒だった同期の一人が、
「訓練後に、一緒に走りませんか?」
と声を掛けてくれました。
正直、最初に出た言葉は、
「勘弁してくれ(笑)」
でした。
その日は体力測定があり、急歩を終えたばかりです。
脚はすでに限界で、
「こんなに疲れ切っているのに、ここから走るのかよ!」
というのが本音でした。
でも、同時に別のことも思いました。
「このメンバーで一緒に走れるのは、もう二度とないかもしれない」
訓練の日程が違えば、次に同じ顔ぶれがそろうことはありません。
みんな学業や仕事の合間を縫って時間を作ってこの場に参加している人ばかりです。
そう考えたら、やっぱり走らないという選択肢はありませんでした。
声を掛けてくれた同期は、すでに班長にも相談し、他の参加者にも声を掛けていました。
最終的には有志が集まり、班長にも一緒に走っていただけることになりました。
走り始める前は、
「もう無理!」
「途中で脱落するかも」
と、みんな口々に笑っていました。
ところが、いざ走り始めると、誰一人として止まりません。
会話ができるくらいのゆっくりしたペースで、30分ほど基地のランニングコースを走りました。
海の向こうへ夕日が沈んでいく。
年齢も職業も、住んでいる場所もバラバラ。
本来なら出会うこともなかったかもしれない人たちと、同じ景色を見ながら一緒に走っている。
走り終えた後は、全員で、
「キツかったー!」
と言いながら笑い合いました。
39歳になって、こんな青春のような時間を味わえるとは思っていませんでした。
50歳を超えた仲間も、
「学生時代はクソみたいな期間だったから、青春を改めて体験させてもらったよ」
と笑っていました。
私自身も運動部ではなかったので、夕日を眺めながら仲間と走り、終わった後に一緒に笑うという経験は、ありませんでした。
「こういうのって、いいな」
って素直に感じました。青春って年齢じゃないんだなと。
年齢も職業も違う人たちが、仲間になっていく
訓練そのものは、装備が重かったり、とにかく暑かったりと、決して楽なものではありません。
A日程よりもB日程の方が訓練の強度は上がるのでしょうし、C日程以降もきつい訓練はあるかもしれません。
それでも、訓練期間中は常に楽しく過ごすことができました。
班員はさまざまな地域から集まり、年齢も職業もバラバラです。
普段の生活では接点がないような人たちとも、課業外の時間にはいろいろな話ができました。
A日程と同じタイミングで参加した同期とも再会できました。
久しぶりに顔を合わせ、お互いに声を掛け合えたことが、思っていた以上に嬉しかったです。
一度同じ訓練を受けただけで、いきなり強い絆が生まれるわけではないと思います。
それでも、訓練に参加するたびに新しい人と関わり、再会した仲間とまた同じ時間を過ごす。
暑さや疲労の中で声を掛け合い、少しずつ信頼を積み重ねていく。
そうやって、ただの参加者同士だった人たちが、少しずつ「仲間」になっていくのだと思います。
今はまだ、同じ場所で訓練を受けているだけかもしれません。
でも、いつか訪れるかもしれない非常時に、助け合える関係になっていく。
訓練の積み重ねは信頼の積み重ねかもしれない。
そんな感覚が、以前よりも強くなりました。
自分に恥じない生き方をしたい
自衛官の方々と話していると、日々自分を磨き、自衛官であることへの誇りを持っていることが伝わってきます。
今回の訓練では、判断に迷った時の基準として、
「恥か、名誉か」
という考え方や、
「最善の追求」
という言葉も教わりました。
どちらも、自分自身に嘘をつかず、自分に恥じない選択をしようとする考え方なのだと思います。
私も、そんな生き方を見習いたい。
人として、男として、肉体的にも精神的にも強くなりたいと、改めて感じました。
訓練は、見えないところでも支えられている
今回、改めて感じたことがあります。
訓練は、目の前にいる教官だけで成り立っているわけではありません。
日程の調整をはじめ、私たちからは見えにくいさまざまな業務を、普段は直接関わることのない隊員の方々が担ってくださっています。
そんな方から、
「引き続き訓練、頑張って参加してください」
と声を掛けていただきました。
訓練中に直接指導を受ける関係ではないからこそ、その言葉がとても印象に残りました。
自分たちが訓練に参加できているのは、目の前にいる方々だけではなく、多くの人の準備や支えがあるからです。
そう思うと、自然と背筋が伸びました。
「自分は参加させてもらっているんだ」
そんな感謝とともに、次の訓練にも真剣に取り組まなければならないと、改めて気が引き締まりました。
私が「1000人の予備自衛官を増やしたい」と思う理由
広報を担当されている方とも、お話をする機会がありました。
このブログのことを紹介すると、
「上級部隊の予備自担当者に共有したい」
と言っていただきました。
正直、とても嬉しかったです。
そして同時に、自分がこのブログを書いている理由を、改めて考えました。
私は密かに、
「自分の発信をきっかけに、1000人の予備自衛官を増やしたい」
と目論んでいます。
もちろん、自分自身が訓練を修了し、予備自衛官として任官することも大切です。
ただ、私一人が任官する以上に、この制度を多くの人に知ってもらい、一緒に目指す人が増えることの方が、より大きな意味を持つのではないかと考えています。
私は、抑止力には装備だけでなく、「人」の存在も大きな意味を持つと思っています。
防衛費をいくらにするのか。
戦車や戦闘機をどれだけ整備するのか。
そうしたことを、私個人が決めることはできません。
でも、この制度を知らない人に、自分の体験を伝えることならできます。
私の周囲には、予備自衛官補という制度を知らない人がほとんどでした。
おそらく多くの人にとって、「自衛隊」という言葉は、日常生活の中で優先順位の高いものではありません。
自分から調べようと思わなければ、予備自衛官補という制度に出会うこともないでしょう。
しかし、実際に制度について話してみると、興味を持つ人が現れます。
すでに私の話を聞いて、
「申し込んだよ!」
と報告してくれた友人も複数います。
その時に確信しました。
政府や自衛隊の広報だけでは届かない人がいる。
でも、私からなら伝えられる人もいる。
私自身が一般人として訓練に参加し、そこで感じた楽しさも、きつさも、戸惑いも、そのまま言葉にすることには意味があるのだと思います。
この制度を知ったことで、私自身の生活にも変化がありました。
体を鍛える理由ができた。
年齢や職業の違う仲間ができた。
自分に恥じない生き方をしたいと思うようになった。
だからこそ、同じように何かを変えるきっかけを探している人に、この制度の存在を届けたいのです。
自衛隊が注目されない日々のために
自衛隊が大きく注目されるのは、多くの場合、日本に何らかの危機が訪れた時です。
災害派遣によって助けられた方も、たくさんいらっしゃると思います。
しかし、自衛隊の本来の任務には、外部からの脅威に対して国土と国民を守ることがあります。
吉田茂元首相が、防衛大学校の学生に向けて語ったとされる有名な言葉があります。
「君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ」
自衛隊が実際の防衛任務で世間から注目され、称賛されるような状況は、すでに日本が大きな危機に直面しているということです。
そうならないことが一番いい。
自衛隊が世間の注目を集めなくてもいい日々を守るために、平時から抑止力を高めておく必要があるのだと思います。
私にできることは、とても小さなことです。
それでも、このブログを読んで予備自衛官補に興味を持つ人が一人、二人と増えていけば、その小さな積み重ねにも意味があると信じています。
B日程で感じた「仲間」と「自責」
さて、少し熱く語りすぎてしまいました(笑)。
今回のB日程を一言で表すのは難しいのですが、二つの言葉を挙げるなら、
「仲間」と「自責」
です。
一緒に汗を流し、励まし合い、同じ景色を見た仲間。
訓練に参加するたびに新しい出会いがあり、以前の同期との再会があります。
共有する時間が増えるほど、少しずつ信頼が積み重なっていくのを感じます。
そして「自責」。
ここでいう自責は、自分を責め続けるという意味ではありません。
誰かに変えてもらうことを待つのではなく、自分がどう成長するかは自分で引き受ける、という意味です。
訓練に参加しただけで、自動的に強くなれるわけではありません。
体力測定で自分の現状を知ったなら、次回までに何を改善するのか。
教官の言葉に心を動かされたなら、それを普段の生活でどう実践するのか。
仲間から刺激を受けたなら、自分も相手に何を返せるのか。
訓練は、自分を変えてくれる魔法ではありません。
でも、自分と向き合うためのきっかけと環境を与えてくれます。
その環境の中で、何を考え、どう行動するのか。
結局は、自分自身との戦いなのだと思います。
2月のA日程を終えた頃の自分と比べると、今は体を鍛えることにも、心を鍛えることにも、以前よりはっきりとした意味を見いだせています。
精神的な強さは、一朝一夕では身につかないでしょう。
それでも、繰り返しこの空間に身を置き、自衛官の方々や仲間と関わることで、自分の中の何かが少しずつ変わっているのを感じます。
そして何より、
「この人たちとなら、いつか非常時に背中を預けられるかもしれない」
そんな仲間が少しずつ増えていくことが、今はとても嬉しいです。
次回の体力測定までには、前屈の記録も更新したいです。
でも、それ以上に更新したいのは、自分自身です。
半年前の自分には、こんな景色が待っているなんて想像もできませんでした。
また次の5日間が、今から楽しみです。
このブログを読んで、
「予備自衛官補って、少し気になるな」
と思ってくれる人が一人でも増えたなら、それが私にとって何より嬉しいことです。
参考リンク
- 防衛省 自衛官募集サイト(予備自衛官補)
予備自衛官補の募集案内や応募方法、訓練概要を見ることができます。 - 防衛省 自衛隊東京地方協力本部
地域ごとの応募情報、説明会日程、問い合わせ先などが載っています。 - 防衛省・自衛隊:予備自衛官等制度
予備自衛官や予備自衛官補について制度の説明を閲覧したり、資料をDLできます。
